飯豊連峰山行

                                                                 
                              中村(記)      


 遠くの山々はおおきな塊を造り、それが春のやわらかな日差しを浴びて幾重にも重なり、南側斜面にはその高さによって雪形が現れ北側はまだ雪深く白く輝き、この広大な空間の中で調和し合っている。
飯豊連峰はまるでそれらの中心であるかのように、懐深く、偉大に、静かに横たわる。尾根と尾根はさらに高みへと融合し合い福島から山形、新潟へと続くいくつかの頂を築き、一方谷は何処までも深く雪解け水を麓に運んでいる。
今回の山行はこの山深い飯豊連峰の主峰、飯豊本山である。
 
 2月、茨城県山岳連盟主催の冬山講習会から当会の今シーズンの雪山は始まった。続いて3月の那須三本槍、4月の会津駒、そして今回。まさに雪山シーズン総決算にふさわしい山行であった。稜線にはかなり大規模な雪庇が残り、亀裂が入っている箇所も多かった。今回の核心は剣ケ峰のナイフリッジと岩稜の通過だが、ロープ他安全器具を使わずして無事通過できた。万が一に備えてテントも担いだが、快適な避難小屋を利用することができた。食糧にも重点を置いた。きついアルバイトがあるので少しでも美味しくボリュームがあるものを、と準備した。概ね十分であった。お酒も豪華であった。
 
 メンバーの気力体力、天候、雪の状態全てにおいて良好であり、素晴らしい春の山を満喫できたことは、大きな喜びであり、幸せである。
本山から主脈縦走路を見ると、神々しいばかりに白く輝く烏帽子岳・北股岳方面を望むことができ、一方麓では遅い春のいきいきとした芽吹きがあった。
山桜は満開、可憐な岩うちわ、やわらかなぶなの芽吹き。ぶなの木々の間から見る残雪の尾根は、そのコントラストが美しかった。入山してからの2日間で樹木は若々しい新緑に染まり、草花は花を咲かせ、舞台装置が変わったかのように春が深まった。夜のささやかな宴はとりとめのない話で盛り上がり、春の飯豊を歩く喜びを皆で分かち合った。
 
本山付近から烏帽子岳・北俣岳方面を望む





【5月3日】晴れ
 深夜零時過ぎ、松崎と取手駅で合流し中村の車で宮本会長宅へ向かう。2時過ぎ、会長宅で石川さんと合流し荷物を会長車に積み込み出発。会長と石川さんが運転。松崎と中村は睡眠を取っていないため毛布に包まり仮眠。

 6時、御沢キャンプ場に到着。先行して駐車している車は5台。身支度の後7時過ぎ、出発。羊歯類が芽吹き始めた杉林の林道を御沢小屋跡まで歩く。そこから登山道が始まる。気温と雪解けの湿度で孵化したのか、虫がやたらに多い。ぶなの落ち葉が登山道を埋めている。歩き始めの1時間は体が温まっていなので、ちょいときつい。下十五里、中十五里あたりまで夏道を登ると、所々に岩うちわやショウジョウバカマが咲いている。さらに上十五里へと登るにつれ、残雪と夏道が交錯し笹平へと向かう。上十五里から笹平までは0.5 キロと道標に記されていたが、笹平の標識は発見できない。地図で確かめるが定かではない。このあたりから残雪の上を歩く。日差しがあり、歩いていると暑い。
 
笹平付近から見た三国岳方面

 笹平付近で勾配がゆるやかになり、残雪の冷気を含んだ風がまばらになった林の間を駆け抜ける。じっとしていると寒い。ここから地蔵山に向かう。
地蔵山で態勢を整え、いよいよ剣ケ峰に向かう。場所によっては幅が50cmほどのナイフリッジ。踏み跡を、歩幅を狭くしてバランスを取りながら歩く。

三国岳直下剣が峰の岩稜

 松崎がトップ、続いて石川、中村、宮本会長。時折南から吹く風に大きなザックが揺れ、緊張し、しばし立ち止まる。雪はザラメ状態で所によって滑る。三国岳に近づくにつれ岩稜が現れ、斜度も高くなる。鎖場が1箇所あり慎重に通過。頂上直下は岩稜を回避し斜面をキックステップで登っていく。三国岳避難小屋到着。
 
剣が峰から三国岳避難小屋を望む

 小屋は平成16 年に改修工事が行われ、とても快適だ。2階にも入り口があるが、今回は1階の入り口を利用できた。トイレの入り口は小屋の外側と部屋の内側にあり、双方から利用可能。夏用水洗トイレと冬用トイレがあり、もちろん冬用トイレを利用。登山者は総勢20数名。我らパーティは2階建ての1階奥に一人1畳程度確保し、水つくりとともに祝宴開始。
 楽しい宴会が始まった。日本酒、ウィスキー、焼酎。水つくりのシャーベットが氷代わり。「飯豊はいいでぇ〜」とご満悦な石川さん。食事のメニューは野菜と豚肉たっぷりの豚汁と煮込みうどん、デザートにはパイナップル。重荷を担いだかいがあった。明日の行動計画を話し合い、切合小屋にザックを残置してアタックザックで本山を往復し、切合小屋に戻る計画に
変更した。19 時45 分消灯。

コースタイム
06:00 川入キャンプ場着
07:05 〃発
07:20 御沢小屋跡(御沢登山口)
08:20 下十五里
08:55 中十五里
09:45 上十五里
10:45 笹平
11:05 地蔵小屋跡
13:30〜剣が峰通過
14:05 三国小屋着




【5月4日】早朝曇り、10頃から晴れ
 夜間風が時折強く目を覚ます。3 時起床、朝食の準備開始。朝食は夕べの残りの豚汁にアルファ米を入れて雑炊、昼はレトルトの赤飯、五目ごはん。食事後、身支度して5 時過ぎ行動開始。
 
 雪庇を回避し、場所によっては夏道を利用して切合小屋に向かう。切合小屋の1 階の入り口は雪で利用できないため2 階の入り口を利用。トイレは屋外に別棟として建てられ、三国岳避難小屋と同じように夏用(水洗)と冬用がある。一度外階段で2階まで登り、さらに1 階に下りて場所を確保。ここでアタックザックに装備と食糧を積めこむ。(ツェルト1、テントフライ1、コンロ・ガス・カップ各1、赤札篠竹数本、水と行動食、防寒着、アイゼン)
 
 草履塚を過ぎ、姥地蔵、御秘所あたりから岩稜が現れ、夏道と残雪が交錯するため、赤布篠竹を立てながら歩く。岩稜の危険箇所はないが、雪と藪とのミックスの箇所では踏み跡があるがルートの選定が必要。

稜線から大日岳を望む

 平坦な一王子付近には残雪が少なく、地面がかなり露出している。水場の標識があるが水場は残雪に覆われている。ここから本山避難小屋はすぐ目の前だ。休憩を取らずに本山避難小屋まで歩く。
 
 本山避難小屋の1 階入り口は雪で覆われ、2 階入り口から出入りしている。中の様子は見なかったが、建物の概観から想像するに、三国岳避難小屋と同じ造りのようだ。屋外に別棟でトイレがあるが、半分近く積雪に覆われていた。この避難小屋の隣に鳥居が建っている。ここで小休止して昼となる。松崎の提案で、彼単独で御西岳に向かうことになった。ツェルト、コンロ、ガスを持たせた後、彼は早々と出発。夏道で往復3 時間弱の行程である。彼の足なら往復2 時間程度だろう。

 本山まで夏道で15 分、3 名で頂上を目指す。風があるが天候がよくとても見晴らしがよい。頂上まではさほど苦労もせず一気に上りきる。中村がトップを歩いたが会長が遅れたことに気が付いていない。しまった。石川から声をかけられた。
 
 晴れ、視界良好。頂上からは御西岳、大日岳、そして主脈縦走路にある烏帽子岳、北股岳、その先へ続く山並みが白く神々しく輝いている。なんという大胆な偉大なスケールなのか。その山並みはどこまでも続き果てることがないように見える。

本山頂と大日岳を望む

 想えば、私が石転沢を見ようと小国に来たのが昨年の8 月末。結果的には時間切れで梶川尾根を登りきれずリベンジを誓った。その後約8 箇月。今回は自分を試す試金石でもあった。こうしてあの神々しいばかりのおだやかな春の山々を見ていると、静かな感動が沸き起こり熱いものがこみ上げてくる。他のメンバーにとっては、この程度は取るに足らない山行かもしれないが、自分にとっては格別である。いつまでもこの場所を離れたくない。来てよかった。来れてよかった。次は梶川尾根、そして主脈縦走だと納得した。何枚か記念に写真を撮り、会長にせかされるように頂上を後にした。
 
 来た道を戻り切合小屋に向かう。3 人が小屋に到着して間もなく松崎が到着した。やはり彼のパワーはすごい。
 今夜のメニューは新たまねぎを加えたレトルト牛丼と卵・わかめスープ、デザートにグレープフルーツ。量はたっぷり大満足。食事の後夕日を見に外へ出る。夕日の具合なら明日は晴れだろう。18 時45 分消灯。

コースタイム
03:00 起床、朝食準備、朝食
05:25 三国小屋発
06:15 七森
07:50 切合小屋着
08:00 〃発
09:00 姥権現
10:10 本山小屋着(休憩)
10:30 本山(3 人)出発、御西岳(1人)出発
10:50 飯豊本山頂上着
11:05 〃発
11:25 本山小屋着
11:40 〃発
12:15〜25御秘所通過
12:55 草履塚
13:15 切合小屋着(13:20松崎/御西岳より戻る)
14:00〜夕食つくり、夕食
18:00〜18:10 日没(夕陽)観賞



【5月5日】晴れ

 夜間雨が降ったようだ。2時起床、朝食の準備開始。朝食は卵ラーメン、夕べの残りの卵・わかめスープ。食事後、身支度して4時過ぎ行動開始。
 
 三国岳避難小屋に向かう途中、朝日が昇った。山での朝日は清々しい。まるで太陽に向かって尾根が続いているかのようだ。
 6 時過ぎ、三国岳避難小屋に到着。ここからが核心部である。夕べ寝床で岩稜通過をイメージしてみたが、具体的にこれといった安全策は思い浮かばなかった。現場に行ってみないとなんとも言えない、というのが自分の結論だ。なんともお粗末な答えだが、それは事実だと思う。途中岩稜とナイフリッジが交互に現れる箇所で、アイゼンを付けるかどうか議論になったが、松崎、会長の意見で装着しなかった。風もなく視界もよく、ロープも使うことなく無
事通過できた。しかも会長はビデオを撮る余裕があった。

剣が峰ナイフリッジを下る
 
 ナイフリッジを通過後、地蔵山のピークを巻き、笹平と思われる付近で休憩。ここからピッケルをストックに持ち替え、上着を脱いだりして身支度を整え下山。長坂の途中上十五里、中十五里で休憩を取り、その御沢小屋跡まで一気に下山。笹平を過ぎて上十五里付近までは残雪と夏道が交錯する。それより下の夏道には岩うちわが咲き誇っている。ぶなの新芽も入山した日よりはるかに多く生き生きとしている。10 時頃、御沢キャンプ場に到着。

コースタイム
01:55 起床、朝食準備、朝食
04:05 切合小屋出発
06:00 三国小屋着
06:15〜07:10剣が峰通過
07:50 笹平
08:15 上十五里
09:00 中十五里
09:20 下十五里
09:50 御沢小屋跡(登山口)
10:10 川入キャンプ場着
10:40 〃発(帰途)
いいでの湯入浴
15:00 水戸帰着




*ガス使用量プリムスPOWER GAS 500T、250T 各1をほぼ使い切る
*費用一人当たり11,100 円(4人分44,400 円)
《4 人分内訳》
高速料金水戸−会津坂下往復9,600 円
ガソリン代6,000 円
食糧・コンロ用燃料10,400 円
お酒3,000円
装備積立金4,000 円
中村・松崎交通費6,150 円
他5,250円

*いいでの湯入浴料金一人当たり500 円
*他行動食、飲料は各自負担

※コースタイムは、宮本が収録したビデオ画像を参考にまとめたものである。


                        宮本・石川・松崎・中村


今回、茨城県山岳連盟加盟の常北山水会のパーティも同じルートで入山しておられました。会う都度わたしたちパーティの写真を快く撮影してくださいましたこと感謝申し上げます。誠にありがとうございました。


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