三本槍岳〜大倉尾根縦走の記録と反省


期間:2007年3月24日(土)〜25日(日)



                                                    中村記



■山  名:那須・朝日岳、三本槍岳



■3月24日

  • 5:30 予定通りキョロロン村駐車場にて宮本車、村越車が合流。宮本車で那須の大丸

    温泉駐車場へ移動。移動中6時頃進行方向左側から太陽が昇り、陽が差して木々を染

    めている。見るとまぶしい。天気晴れ、登山日和だ。会長は久しぶりの三本槍縦走に嬉し

    さを隠せない。今日は新人2名とベテラン4名の強力なメンバーだ。


  • 7:00 共同装備を分配後、各自荷造りして行動開始。テント、スコップ2、スノーソー1、

    篠竹。わかん・スノーシューはどうするか迷った結果、持参することにした。公衆トイレの

    右側に登山口があるようだが車道を峠の茶屋に向かう。ロープウェイが2・3日前に開通

    し9時から5時まで車が通行できるが、夜間はゲートが施錠させており通行できない。車

    道はところどころ雪解水が凍結しており、車道と登山道を交互に歩く。


  • 7:55 峠の茶屋登山口に到着し小休憩。気温2度C。寒くない。8:10出発。積雪は1メ

    ートルくらいだろうか。朝日岳が右手前方に見え始めると、やがて積雪量が少なくなり、瓦

    礫の夏道を黄色いペンキを見ながら歩く。途中、男性3人のパーティーが追いついて来

    た。聞くと朝日岳南東稜を登るというクライミングのパーティーだ。


  • 9:23 峰の茶屋跡(避難小屋)着。視界はよく、茶臼岳斜面から蒸気が上がっているの

    が見える。積雪はほとんどない。避難小屋周辺は強くはないが西からの風が吹いており、

    小屋の蔭で風をよけながら行動食を取る。春夫さんがグレープフルーツを切り分けてくれ

    た。甘酸っぱくてとてもおいしい。各自腹ごしらえした後、すぐ先の剣が峰東斜面をトラバ

    ースするためアイゼンをつける。アイゼンをつけると、気持ちが引き締まる。念のために

    典子さんが安全ベルトをつけ、春夫さんがビレイすることにした。ロープを車中に残してき

    たため、シュリンゲを何本か繋ぐ。さあ、これから雪山開始だ。


  • 休憩後、間もなくトラバース開始。リーダーがルートを見極め、トップの松崎さんに指示す

    る。リーダー、智子さん、典子さん、春夫さん、中村と続く。しばらくの間ピッケルを使いな

    がら一歩一歩確実に歩く。距離感がつかめないが、積雪があるのは目視で斜面下右下

    50メートルくらいまでだろうか。


  • トラバースが終わり剣が峰を越えると、積雪がないためアイゼンをはずす。瓦礫の夏道と

    なりしばらくすると手すりがある階段状の急な登りとなる。その先は少し下って西側斜面

    に回りこむが、鎖場で日陰には岩に雪がのっていたり凍結している箇所があり、トップの

    松崎さんはそのまま通過したが、他メンバーは途中でアイゼンを付けた。左下西側はガ

    レ場の断崖だ。ここで落ちたら重傷を負ってしまうにちがいない。慎重に通過する。ここで

    南東稜を登っていったパーテーとすれ違った。


  • 11:30 朝日岳分岐到着。風があり曇ってきた。リーダーから風がない場所を探すよう

    に指示を受ける。夏用のベンチが2、3あり、この上にザックを置いて休憩した。


  • 11:43朝日岳頂上到着。頂上は雪がない。記念撮影。


  • リーダーからテントポールを誰か持ったかと聞かれたが、テント当番の中村はポールを

    忘れたことに気付いた。他のメンバーも背負っていない。全員に一瞬緊張が走った。


  • 11:55 熊見曽根分岐着。行動食を取り軽く休憩し、12:10行動開始。


  • 標高1,900メートルの小ピークを過ぎると、北側は雪遊びにとても快適な斜面だ。ここか

    ら清水平へ向かってキックステップでスピードを出して下っていく。雪の感触が気持ちい

    い。まるで童心に戻った気分で斜面を駆け下りる。春夫さん、リーダーは以前テントを張

    ったという清水平の板張りのテント場を探し、前方左下にその場所を発見。かなり傷んで

    いるようだ。清水平に下ると、木道が傾いたままところどころに顔を出している。三本槍岳

    は目の前だ。左前方、北西方向に道標が見える。三本槍の頂上だ、曇ってはいるが視界

    は十分にある。


  • 清水平を過ぎ、赤布の標識棒を3箇所程度立てながら歩く。相変わらずトップは松崎さ

    ん。若くてパワーがあり疲れを知らないようだ。その後ろを自分、Aさんと続く。ゆるやかな

    登りとなり、Aさんが遅れだした。2回程度自分はたち止まり、Aさんが追いつくのを待つ。

    リーダーが松崎さんに駆け寄り、何か指示を出した。はい松や笹が雪の中から顔を出し

    た間を抜け、あえぎながら登っていく。


  • 13:30 三本槍岳頂上着。須立山、坊主沼はまだ遠い。テントポールの件で今後の行動

    をどうするかリーダー、春夫さんが話し合う。坊主沼の避難小屋まで行動するか、雪洞

    を掘る場所を探しながら行動するか、ここにビバークするかどうか。Aさんの疲労具合が

    判断の決め手となった。


  • 14:00 この場所でブロックを積み、テントのフライシートを屋根にすることにしてビバー

    クと決定。まず3畳ほどの場所を1メートル近く掘る。その下からは一部笹が顔を出した。

    ブロックを切り出してみると、あまりにも質が悪く、深く掘れないばかりか切り出してもすぐ

    崩れてしまう。場所の判断を誤ったか?の不安が頭に浮かんだ。それでも春夫さんがこ

    の場で決行することを提案。近くでいいブロックが切り出せる場所を松崎さん、春夫さん

    が発見。メンバー全員でブロックの切り出し、積み上げ、隙間に雪を詰める作業を行っ

    た。50cmくらい積んだだろうか、2重にしてひととおり壁が完成した。先に智子さん、典

    子さんが入りビニールシート、エアーマットを敷く。テントの外張りを屋根にして竹ペグをさ

    す。さしてもザラメ状態のため、ブロックをのせて補強する。豪邸の完成だ。リーダーが入

    り水と食事の準備開始。松崎さん、春夫さん、中村はスカートの周りにブロックを2段程度

    積み上げた後、中にはいる。ザックは外に穴を掘り、ブルーシートで覆う。アイゼン、ピッ

    ケル、ストックはまとめてテントに傷をつけないよう少し離して立てておいた。なんと松崎さ

    んはパワーがあることか。手際よくザックやアイゼン・ピッケル、ストックをまとめてくれた。

    中に入ってほっと一息。外気温2度c、内部は7度c。初めてのビバークにしては暖かく、

    気持ちに余裕がある。2月、県山岳連盟主催の安達太良山冬山講習会で、雪洞つくりを

    体験した。また3月にも雪洞を掘った。その時のブロック切り出し経験が役立った。


  • 風が少しずつ強くなるにつれ、外張りがはためきだし、風下に積んだ外張りのブロックが

    飛ばされはじめた。まもなく外張りが大きくゆれ始め、外張りが飛ばされる危険を感じ、松

    崎さん、春夫さん、中村は再び外張りの調整とブロックを切り出し、外張りに雪を積む作

    業を開始した。50cmくらいは積んだだろうか、回りを2重にして、テントがはためく入り口

    付近を強化し作業完了。もう既に外は雪明りでボーツとほの暗い。


  • 18:00 智子さんが甘酒を沸かしてくれた。思わず、「旨い!」の大声を3度も上げる。ほ

    んとうに旨い。リーダーは胡坐(あぐら)をかき、その上にストーブと鍋を乗せて水つくりに

    専念する。めいめいに狭い中で身支度やらお酒を飲んだりしながら、ささやかだが楽しい

    宴会と食事が始まった。日本酒、ブランデー、ウィスキーとお酒は十分ある。苦労して作っ

    た豪邸に、安らぎを覚えた。


  • 奥から智子さん、典子さん、リーダー、中村、松崎さん、春夫さん。お互い交互に向かい

    合い足を伸ばして座っているのが精一杯で、身動きはほとんどできない状態。荷物は足

    の下や背中の後ろやらで、必要なものが欲しい時に出てこない。おまけに1段掘り下げた

    入り口には雪穴ができて、寒い風が春夫さんの右足に吹き上がってくる。


  • 食事は鯛・鶏肉の鍋。さすが料理当番の村越家、食材の準備も下ごしらえも手際がい

    い。とても体が温まる。さらに雑炊にして、とても美味しい夕食だった。


  • 食事中や水つくりの間も風は止むことなく吹いている。屋根のフライシートがはためくの

    で、春夫さんがビニールテープを使い、テントを内側から持って遊んでいる部分を縛る。な

    るほど。はためくのが強いときは交代でテントを内側から引っ張った。


  • 21:00頃 夕食後、交代でトイレに外に出る。自分は外へ出ても外の景色を楽しむ余裕

    がなく早々に豪邸へ戻る。夜は何度となくテントのはためきで目を覚ます。音が大きいだ

    けならいいのだが。何時頃だろうか、みぞれ(混じりの雪)がちらつき、明け方は小雨とな

    った。


■3月25日

  • 6:00 目が覚める。睡眠は十分とれた。小雨、風あり、視界悪し。一番奥の風上、智子

    さんのあたりの雨漏りがひどく、シュラフがずいぶん濡れた。外張りは飛ばされずに一晩

    もってくれてよかった。少しずつ体を動かす。夕べ典子さんと智子さんが作ってくれたおに

    ぎりやパン、ラーメンを作って食べる。体が温まる。美味しい。


  • 9時行動開始をめどに身支度、テント撤収開始。雨はほとんど降っていない。


  • 10:15 下山開始。清水平に向かう。昨日とは別なルートに踏み跡がありそれをたより

    に下り始める。雪を踏み抜き、あわててワカンやスノーシューをつける。視界はかなり悪く

    10メートル程度だろう。どうも夏道を下っているようで、昨日とはルートの様子が違う。

    ホワイトアウトの恐怖が頭を過ぎる。トレースがどうもはっきりとしない。50メートルくらい

    下ったろうか。その場所で、皆でルートを探した。幸いにトップの松崎さんが昨日の赤布

    竹の標識を見つけ安堵した。結果としては間違っていなかったが、かなり危険なことをし

    たことになる。ビバークよりも危険だと心中おだやかではなかった。ところで中ノ大倉尾根

    へ下山を決定したのは、どの時点だったかはっきりとした記憶がない。


  • 中ノ大倉尾根分岐に出た。小休止。軽く行動食を食べる。昨日この地点を通過したか否

    か、記憶がないのはどういうことか。清水平からこの地点を通過せずに三本槍に登った

    のだろうか?ここは雪が少なく、岩が露出して黄色いペイントが見える。ここから標高差

    10〜20メートル程度ゆるやかに東へ上り、小ピークをまいて80メートルほど下ると赤面

    山への分岐があるはずだ。しばらくは雪が融けて地面が現れた道を歩く。ワカンをつけた

    また岩の上や土の上、氷の上を歩き、赤面山分岐に到着。中ノ大倉尾根分岐からここま

    での間に、夏用のベンチが2、3あった。


  • 少しの間、雪の間から出た笹などを避けながら急な斜面を下る。一瞬ガスが切れ、視界

    が広がった。この尾根の全体が見え、さらに右手に北温泉へ下る尾根が、その先の麓ま

    でもが見えた。全員開けた視界に感動して記念撮影。ここまで来ればもう道に迷うことも

    なく無事下山できる、そう思ったら充実感が沸いてきた。雪はワカン、スノーシューで歩く

    のに十分あり、とても歩きやすく気持ちがいい。


  • この尾根からはずれ、北温泉へ向かう道標があった。この先が分かりにくい。道標の指

    す方向に歩くとスキー場のリフト終点に出た。地図を確認し、少し西側の沢方向に戻ると

    夏道の柵がみつかり、それに従って下る。途中スキー場へ上る分岐がある。さらに進む

    と、林道を横切り、北温泉から沢の斜面を上り詰めた休憩場所に出た。15:00。


  • 15:45頃、北温泉に到着。汗を流した後タクシーで大丸温泉まで移動。宮本車でキョロ

    ロン村に移動して解散。


  • 費用(食材・交通費、他)6,000円+装備積立金2,000円で計8,000円。


  • ※帰宅後、ワカンががたついているのに気がついた。中ノ大倉尾根分岐から赤面山分岐下部あたりまでの、岩の上を歩いたことがその原因らしい。山道具店へ持込み、修理を可能かどうかメーカーに問い合わせたところ、リベットの打ち直しは5,000円程度でかのうだが、リベットを通す穴が大きくなっているため再発する、とのこと。やむなく新品を購入した。雪上での使用に限定しているため、岩の上で使用した場合は保障外となることも伝えられた。


トップに戻る      山行記録に戻る