夜のしじまを突いてタイヤの摩擦音がゴーゴーと響く。一路常磐道を北上して目的地を目指す。金曜日の夜ではあるが交通量は少なく運転が比較的楽である。午前3時前に山形県立自然公園柳沢避難小屋に着く。下弦の月が煌々と輝き、こんもりとした杉の大木に囲まれた三角屋根の小屋のシルエットが浮かんでいる。遅い到着であるから静に入ると、すでに先客が寝ていて、まるで山賊小屋の様相である。空いたスペースで3時間ばかりの仮眠をする。
柳沢避難小屋を起点とする観音寺コースに挑戦である。林道終点まで車を入れると、今まさに山に入ろうとする十数人の一団がいた。話を聞くとなめこ採りの人たちだった。
午前7時30分出発。なだらかな杉の木立を抜け30分も歩くと、粟畑の道標が出てくる。
左は最上カゴからウバ地蔵、柴倉山へのコース。ウバ地蔵から藪こぎ覚悟の大沢小屋への道もある。前回の層雲峡から入ったあの小屋である。右手は白髪山へと十字路になっている。このコースは仙台カゴと最上カゴを遠くに近くに見やりながらブナの林を進む楽しさがある。葉を落としたブナや雑木の裸木から柔らかい初冬の日差しが指し込んで、降り積もった落ち葉が絨毯みたいにふかふかとし、靴底からの感触がなんともいえない。
楠峰近くの尾根に出ると前方にどっしりとした船形山の全容が姿を見せ、仙台カゴ・最上カゴの眺望も良い。船形山は船をひっくり返した形から名がついた。山容はまさにそのもので、どちらが艫で舳先なのかはよく分からないが眼前に浮かぶ姿は威風堂々としている。山形県は御所山と呼んでいる。ここからはトラバースが多くなり3日に降った雪解けの湿りが足元を危うくして足の運びも慎重になる。
午前9時30分前後、仙交小屋跡分岐に着く。小屋の後らしき土台が朽ち果てている。あたりは鼠毛色にブナ独特の斑点をつけたブナ林がひろがり、昔全国有数のブナ林を誇った名残りを見せてくれる。分岐というが右手の道は廃道となっている。ここまでは比較的なだらかな登りであるが、ここから急な登りとなる。
午前10時30分山頂下に着く。低木が登山道をトンネルのように覆いかぶさりリックや頭がぶつかり歩きづらい。ガイドブックに「きつい登り」とあったが、本当にきつい。
雨水や雪解けで登山道がえぐられ足場が悪い。斜度はどのくらいか知らないが相当な急登で何かに掴まらなければ登れない。
悪戦苦闘の末、低木が切れて視界が開けると山頂小屋が見えてきた。11時10分山頂到着。小さな祠の御所神社にお参りする。
山頂は快晴無風。数日前の降雪で空気が湿っているのか遠景は透明感が欠しくぼんやりしているが、360度の眺望は3時間某かの苦労を一気に忘れさせてくれる。
山頂に周辺の表示板がないのでどれがどれだかよく分からないが、山頂を極めた人だけが楽しめる至福の一時である。船形山には6本の登山道が山形県、宮城県からある。山頂からそれぞれの道が俯瞰できる。我々は南から入ったが、来し方を振り返えそうと登山道をなぞっても分からなかった。西からの層雲峡コース・御宝前追分・賽の河原コースの登山道が眼下に見える。前回難渋した道である。リックを会長にしょってもらい夢遊病者のようにふらふらになったあの道である。
山頂表示の大きな道標、三角点、誰かのリレーフ、二階建ての山頂避難小屋、これが山頂の全容である。大きな船底のような山頂である。
午前11時55分山頂を後にする。急坂の道を一気にくだり仙交小屋跡分岐に1時10分頃着く。急な登りと一気のくだりで足腰のダメージが大きく左足に痙攣を起こす。
山の冬日は陰りが早く1時過ぎであるが、日差しが弱々しく感じられ落ち葉が午前中の照る葉からシルエットが濃くなって、かさこそという落ち葉の音も陰に籠って聞こえる。
午後3時10分駐車場に帰る。コース設定の時間にあった帰りである。我々を途中追い越した二人連れの男がたばこを燻らせていた。なめこを採って来たと言うので分けて欲しいとお願いしたが、量が少ないので駄目だという。そうは言ってもそこは東北人、一回分をくれた。車を小屋まで戻し今夜の支度にかかる。
柳沢の避難小屋は三角屋根の2階建て、畳が敷かれ、大きな炉が切ってありそこに薪ストーブがある。こんな小屋は初めての経験である。先客がいた。上山明新館高校の山岳部の先生2人と生徒4人である。その中のひとりが自衛隊に行きたいという夢を語ってくれた。2年生であるがしっかりとした目標を持っている青年に矜持を持てとアドバイスを送った。
我々の山行の楽しみは宴会である。疲れた体を癒してくれる源である。今夜のメインはしし鍋と鳥の水炊きである。日本酒1升、白ワイン1本、ビールが6本の豪華版である。
しし鍋を高校生にお裾わけして、頂いたなめこ汁からスタートする。なめこ独特の匂いと食味を堪能した。山の恵みに感謝である。8時就寝。
真夜中トイレタイムで外に出る。ボディヒーテイングで体が温かいせいか余り寒さを感じない。中天に下弦の月が輝き満点の星が散りばめ煌々とした明かりに映り出された杉の大木や小屋のシルエットは美しく、トトロの森にいるような錯覚を覚えた。
8日朝、快晴である。昨晩の水炊きにうどんを入れた朝食をとる。今日はただ帰るだけの日程であるからのんびりとした朝である。高校生たちが先に小屋を出て我々は午前8時過ぎに小屋を後にした。昨日は夜道を走ったので黒伏山あたりの状況が分からなかったが、黒伏山の岩峰が飛び込んできた。むき出しの岩壁はロッククライミングのメッカといわれているだけのことはある勇姿である。裾野にひろがるカラマツ林が黄金色に染まり岩壁の赤茶と絶妙なコントラストを織り成し、暫し見事な紅葉を楽しむ。
東根温泉の共同風呂「こまつの湯」350円に入り、山の疲れを癒し帰路に着く。
2009.11.6(夜立ち)7.8
同行者=宮本・井原・村越(智) |
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