熊野古道~大雲取越・小雲取越完全歩行の旅
熊野新宮大社・熊野那智大社・青岸渡寺から熊野本宮大社
期間:2014年11月5日(水)~9日(日) |
熊野への旅は観光も入れて今回4回目である。何故そんなに熊野なのと聞かれれば、「熊野」という二文字が持っている語感・語韻が興味を誘うのである。熊野参詣には四本の道があった。田辺から紀伊半島を真横に横切る中辺路の一部「大雲取越・小雲取越」が今回の舞台である。大雲取越・小雲取越は那智大社からの山岳道であるが、今回は熊野速玉大社をスタートし海岸沿いの浜王子跡や補陀洛山寺を回って那智の滝、那智青岸渡寺・那智大社を参詣し、大雲取越・小雲取越えての熊野本宮大社、大斎原をゴールとする55キロ完全歩行の祈りの旅である。
異次元的金融緩和で7年ぶりに115円となる円安や1万7千円をつけた株価、NYダウの史上最高値とかの世間の喧騒を後に、早朝の新幹線で熊野に旅発つ。
11月5日 |
名古屋―バス-新宮(勝倉神社・熊野速玉神社・浜王子跡)―阿須賀神社―浜王子跡 歩程約4キロ 約1時間30分 |
名古屋に降りると、バラバラと小雨が落ち台風20号の影響が出ている。
新宮の勝倉神社が今回の旅のスタートである。勝倉神社は熊野速玉神社の元宮と言われている。天の岩楯と伝えられる岩上に鎮座する勝倉神社は、昔、山上に張り出した「籠り堂」があったそうだが、今は礎石のみである。朱に染められた社は新宮の街中から天空に浮かんで見える。神社に上がる石段は天を仰ぐばかりの急坂で、苔むして不規則な段組で恐怖感を覚える。石段は源頼朝が寄進した鎌倉時代のもある。2月6日の「火まつり」は石段を駆け下ることで有名である。
地を這うような石段 |
天空に浮かぶ勝倉神社 |
傾斜が分かる |
熊野三山の一つ熊野速玉大社は海の祭神である。速玉之男神の名から神社名がついたと言われている。神倉神社を元宮といい現在の神社を新宮といい、入口鳥居、拝殿、鈴門などから神域が成り立っている。天然記念物の平重盛手植えの「梛(なぎ)」の大木がある。梛は凪に通じると言われて神木に用いられる。新宮市は弁慶生誕の地でもあり山内に弁慶の立像がある。速玉神社の入口鳥居を後に、熊野川を左に置いて、新旧入り混じった住宅街を20分程進むと、海岸近くに徐福が上陸したと伝えられる阿須賀神社がある。さらに海岸沿いを20分程歩くと今日の最終地浜王子跡である。今宵の宿は南紀勝浦休暇村で、宇久井半島の高台にあり樫や椎の原生林に囲まれた静かな宿である。
11月6日 |
浜王子跡―熊野灘海岸―高野坂―佐野王子―補陀洛山寺―大門坂―那智滝 歩程約16キロ 約7時間 |
台風20号の影響で海は怒涛逆巻いている。午前8時、浜王子跡から松林を抜けて海岸に降りる。熊野灘は轟々と唸り波打ち際まで押し寄せている。そんな中波を避けながら高野坂登口を目指す。30分ほどで「JRきのくに線」逆川の高架下をくぐると高野坂登口となる。きのくに線のトンネルの上を歩く感じで石畳みが続き15分程で峠に達し、展望台からは白波が砕ける王子ヶ浜が眺望できる。途中には畑や崩れた石垣が点在して、過って人が住んでいたと思われる。約40分で高野坂を抜ける。国道42号線を西に向かい黒潮公園や新宮港を見やりながら街なかを行くと「沖見旗」という珍しい苗字をみつける。先祖はきっとクジラ漁に関係していたのかな、なんて想像しながら歩く。10時20分国道の脇にある佐野王子跡に着く。尼将軍供養塔や宝篋印塔、地蔵尊がある。宇久井駅を過ぎて小狗峠に向かう。11時5分小狗(こく)子(じ)峠に取り掛かる。小狗子峠という謂れを聞き忘れたが、登り口から照葉樹や杉、竹の混合林の鬱蒼とした林の中を進むこと10分程で峠に着く。苔むした石畳み、荒れた山中は古道の名にふさわしい。峠を下りて狗子の浦を眺めながら大狗子(おおくじ)峠(とうげ)に向かう。11時25分国道ときのくに線に挟まれた細長い登り口をスタートする。登り出しから急坂である。トンネルの上を越える位置関係である。混合林の木の根を踏みながら登ること約25分で反対側に出る。名は「大」と付くが小狗子の方が手ごたえあった。12時15分浜の宮王子跡に到着する。隣は補陀洛山寺で、平安時代から江戸時代にかけて、観音浄土である補陀洛山へ小舟で旅発つ「補陀洛渡海」で有名である。屋形を乗せた小舟で渡海する。屋形には扉がなく、人が入ると四方を釘で打ち付け出られなくする。4つの鳥居がある。「発心門」「修行門」「菩薩門」「涅槃門」の死出の四門を表している。北風の吹く旧暦11月、親船にひかれ熊野灘の沖合で綱を切られ観音浄土を目指したという。渡海入滅は江戸時代までに15人に及ぶ。熊野灘の沖合で入水自殺した平維盛の墓もある。ここから5キロほど北上すると那智曼荼羅の道に入る。13時15分那智駅をスタートする。那智川沿いの国道43号線を那智滝方面に進む。2011年9月の台風で那智・勝浦は大水害を受けた。その爪痕の復興工事が至る所で行われて、那智山には幾筋の崩落の跡が残っていて砂防ダムの建設が進む。尼将軍供養塚や市野々王子跡、多富気王子を経て大門坂駐車場に15時10分到着する。ここから路線バスで那智の滝に行く。落差133㍍の名瀑は水量も多く見る者を圧倒する。今日は南紀勝浦休暇村に連泊である。
11月7日 ≪大雲取越≫ |
大門坂―那智大社・青岸渡寺―船見茶屋跡―船見峠―大雲取―地蔵尊―石倉峠―越前峠―胴切り坂―円座(わろうだ)石(いし)―小口自然の家 歩程約15.5キロ 約9時間 |
日の出は6時過ぎである。水辺線には雲一つない幸運である。真っ赤な太陽がぽっと顔を出すと、瞬く間に黄金色の玉が浮かび上がり、水辺線を真紅に染め上げてゆく。神々しさに太陽を神と崇める精神が理解できる。今日のコースは今回のハイライトである。宿から大門坂駐車場までバスで送られる。大門坂を7時55分にスタートする。杉木立の石畳みや清明橋の石材を踏みしめ登ること30分、那智大社・青岸渡寺に着く。9時10分青岸渡寺と土産物屋の間の石段を登る。登口から急坂で苔むした石段が続き、薄暗い木立の中を右に左にと折れ、高度を上げると9時35分那智高原に着く。林道から山道へ入ると、急な登りと下りが繰り返され登立茶屋跡まで続く。さらに石段の登り坂や急坂が続き、11時過ぎに船見茶屋跡に到着し昼食をとる。休憩所があり那智高原、那智勝浦町が一望できる883㍍の船見峠まで比較的平坦な尾根道を渡る。色川辻から下り登りを繰り返し行くと、沢が現われる。この沢がやがて那智の滝になるのかどうか分からない。13時20分、やや開けた平場である地蔵茶屋跡で小休憩する。大雲取山が近くに位置するが姿は見えない。13時30分石倉峠に向かう。急な石畳みの登りが続き14時00分石倉峠着、さらに傾斜の急な石畳みを上り詰めると、14時30分865㍍の越前峠に。越前峠からは、胴がちぎれそう位辛いところから名がついた胴切坂の石畳みの滑りに気をつけながら延々と下る。15時45分、楠の久保旅籠跡を通過、16時20分神様が石の上で談笑したという円座(わろうざ)石(いし)を過ぎると緩やかな下りが続き、大雲取越登り口に出る。小口橋を渡り郵便局の脇を通り高倉橋を渡ると今宵の宿小口自然の家である。17時前に到着する。廃校になった学校を活用した宿泊施設である。清潔で接客も食事も良く旅の良き思い出である。
この大雲取越コースは、登り出しが約300㍍、ピークが883㍍、そして小口の下り口が65㍍と登りが約600、下りが800㍍と高低差が大きく、アップダウンの繰り返しが多く、しかも木の根坂や苔むした石畳みが続く山道である。杉やヒノキの林で鬱蒼としていて、途中には比較的規模の大きい楠の久保旅籠跡、中根の旅籠跡などがあり、往還の盛況ぶりが偲ばれ古道にふさわしいタフなコースである。
熊野灘の初日 |
補陀洛山寺 |
補陀洛渡海舟 |
那智の大滝 |
11月8日 ≪小雲取越≫ |
小口自然の家―桜峠―石堂峠跡―百閒ぐらー松畑茶屋跡―大斎原駐車場 歩程約16キロ 約7時間 |
前線の影響を受けて天気が崩れる予報で雲がやや多い朝である。山崎ガイドは昨日ほどではないと言うがタフなコースであることは変わりない。民家の庭先、軒先を借りて20分程で赤木川の小和瀬の渡し場に出る。ここが小雲取越の起点である。7時20分スタート、小和瀬から古道に入ると、すぐに石段となり尾切地蔵を過ぎるあたりから急な登り坂が桜茶屋跡まで続く。更に桜峠まで急な登り坂となる。桜峠を過ぎると、比較的快適な尾根道が続き、奥深い熊野山脈が一望できる百閒ぐらの展望台に11時00分着く。果無峠から大塔山まで見渡せる。ここからは歩きやすい尾根道となり、ゆるやかな下りとなる。松畑茶屋跡で昼食をとる。長い下りを降り切ると13時20分請川に到着する。約7時間の小雲取越えが終わった。完全歩行と銘打った今回の企画であるから、さらに大斎原まで歩き駐車場に14時30分到着し今日の予定を終わる。今宵の宿は、湯の峰温泉の湯の峰荘である。世界遺産の「つぼ湯」に入ろうとしたが2時間以上の待ち、入浴は止めた。湯の峰温泉は、熊野詣において栄えた日本最古の湯で、歴代上皇の熊野御幸によって広く名が知られるようになった名湯である。つぼ湯は、川岸の小屋の中に2~3人が入れる岩穴がありそこに湯が沸いている。小栗判官蘇生の伝説がある。1日7回湯の色が変わるという。つぼ湯の少し下流に増形があり、温泉卵を作っている。
11月9日 ≪大日越え≫ |
湯の峰温泉―湯峰王子―鼻欠地蔵―月見ケ丘神社―大日越―下り口―熊野本宮大社―大斎原 歩程約4キロ 約3時間 |
今日は最終日、湯の峰温泉でたっぷり湯につかり昨日までの疲れを癒したお蔭かみんな元気である。7時30分湯の峰荘をスタートする。天気予報は雨であるが、晴れ間が見える。鄙びた温泉街を抜けつぼ湯を右手に見て、古道に入ると湯峰王子に到着する。この古道は中辺路の脇道で熊野詣での疲れをとるための寄り道と言われている。木の根や石畳みを踏み、石段に注意し、急こう配の坂道を登ると約1時間30分、8時55分月見ケ丘神社に到着する。あたりはユノミネシダの自生地で緑一色である。月見ケ丘神社の祭礼では、着飾った子供を親が肩車して参詣道を登るという。神社からは急な下り道が続き、9時25分大日越を終えた。距離は短いものの厳しい階段の続くコースであった。熊野本宮大社で4度目の参拝を済ませ、大斎原で完全歩行証明書を頂き「大雲取越・小雲取越」完全歩行が「完」となった。
湯峰薬師堂 |
湯の峰温泉街 |
世界遺産つぼ湯 |
大斎原大鳥居 |
大雲取越・小雲取越コースは、ここを歩いた都びとの「観音浄土」への思いや古道の住人の暮らしぶりなどが偲ばれ、古道の雰囲気を存分に楽しめた。今回はクラブツーリズムの企画で、ツアー参加者16名(女10名男6名)山崎ガイドと坪倉添乗員の名コンビによる案内で楽しい山歩きができた。
2014.11.5~9(4泊5日) 費用 120900円
前泊ホテル 6700円
常磐線 7820円 |
勝倉神社鳥居 |
熊野速玉神社 |
新宮城址 |
浜王子跡 |
佐野王子跡 |
小狗子峠山中 |
大狗子峠入口 |
浜の宮王子跡 |
補陀洛渡海舟 |
補陀洛山寺 |
きのくに線 那智駅 |
那智まんだらの道 |
まんだらの道山中 |
大門坂 |
那智大社と大樟 |
青岸渡寺 |
大雲取越入口 |
入口石段 |
山中の道 |
円座石 |
大雲取越下山口 |
小口自然の家 |
大雲取山かな |
小雲取越山中 歌碑 |
小雲取越下山口 |
湯の峰温泉 |
温泉共同浴場 |
湯の峰荘 |
大日越の古道 |
木の根坂 |
月見ケ丘神社 |
大日越下山口 |
熊野本宮大社 |
八咫烏ポスト |
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大雲取越・小雲取越え熊野三山完全踏破証明書受領式 |
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